「本当に涙が出そうになります」1

計画があった。

 

1年くらいかけて達成できれば良いと思っていた計画だった。

 

古町のソープ街の中ほどにJAZZ FLASHというジャズ喫茶がある。

計画とは、1年ほどかけてその店に通いつめて常連になり、ある日人の少なそうな時間帯を見計らってアラバマシェイクスの”SOUND&COLOR”を流してもらうことだった。JAZZ FLASHには400万円するVITAVOXのコーナーホーンのスピーカーが設置されている。

 

 

何度か店の前まで訪れた事はあった。しかしタイミング悪く営業していなかったり常連さんと思わしき方の貸切イベントをやっていたりでなかなか店内に入れなかったのだが、先日初めての入店に成功した。

 

計画が始まった。

 

「こんにちわ、やってますか」

と尋ねるとマスターと思わしき男性は(そのとき店内にはその男性しかいなかったし、その男性以上にマスターの雰囲気を纏った人物がその店に存在するとは思えなかった)

 

「はぁい、どうぞ」とこたえた。

他にお客さんがいなかったためか、店内は無音だった。

 

席に着くなり、さっそくトリオ編成のピアノジャズが流れた。(誰の曲だったんだろうか)

初見の若造たちにVITAVOXの洗礼を浴びせるようにマスターはゆっくり音量をあげた。

一関のベイシーで聴いたJBLとはまた違う、暖かみのある音だった。

 

薄暗い店内、良い音を鳴らすためだけに設計されたと思われる間取り、仁王像のように対に設置されたVITAVOXのスピーカー、大量のレコード、吸音のために掛けられた厚手のカーテンと壁一面のスウィング・ジャーナル、

そして祀(まつ)られるようにライトアップされたジョン・コルトレーンの写真。

 

「あれはコルトレーンですか」

と聞くとマスターは

 

「ええ、神様です」

とこたえた。

 

 

 

 

 

つづく